「趣旨採択」との悲しい結果

2023年10月01日

「学校給食費の無償化を求める吉川連絡会」のみなさんから提出された「学校給食費の無償化を求める請願」は、本当に残念なことに「趣旨採択」との結果に終わりました。
「趣旨採択」、何となく体の良い言葉ですが、実質的には「否決」とほとんど変わりません。表立って反対することもできないから「趣旨」だけ採択しておく・・・。そんな感じです。
とても悲しい9月議会でした。

今回の「趣旨採択」の動議は、請願そのものや紹介議員である遠藤議員の発言を曲解して提出されました。
動議の理由として挙げられたのは「市の単費で恒久的に給食費を無償化することは困難」とのことでしたが、請願は市に対し給食費を無償化することを求めると同時に、国や県に対して、国や県の制度として給食費を無償化するように働きかけてほしいという、2つの願いが込められた請願でした。
決して市の単費だけで恒久的に無償化することだけを求めてたのではありません。請願書には二つの願いがちゃんと並べて記されています。

今年4月に退任された明石市の泉房穂元市長は、明石市の子育て支援策を強力に推し進め、同時に国に働きかけ、国の子育て支援施策そのものを動かしてきたことでとても有名です。
市の予算で何かを手厚くすれば、一時的には市の負担が重く大変になる。
それでも実施することで何か良い結果が得られ、そしてその結果をもって国に働きかけていけば国の政治を変える力となる、そういう信念のもとに市政運営にあたられた方だと思います。
泉元市長のように、市民の生活を守るための事業を積極的に実施し、国の制度そのものに働きかけて国の姿勢を変えていく、そういう姿勢と気概を吉川市にも求めたいと思います。

もう1点誤解又は曲解されているのは、本会議での成本議員の質問に対する遠藤議員の答弁についてです。
「段階的な無償化は考えなかったのか」というような成本議員の質問に、遠藤議員が答弁したのは、「今500近い自治体が無償化を実施しているが、全員が無償化ということではない自治体もある。請願者としては全員の無償化を求めているが、吉川市でどのような形で実施することが最適かという点については執行が考えること」だと答えました。
具体的にどのように無償化するかを考えるのは、執行の仕事だと答えたのです。
それが「遠藤議員は段階的な実施を否定した」と捉えられていて、どうしてわざわざそんな風に曲解するのか不思議です。

動議提出の説明で最も驚いたのは、「学校給食費のみをもって若者が結婚や出産を躊躇う要因となるデータが見当たらない。少子化対策のパッケージの上段を占めるのは奨学金や賃金で、給食費が若者が子どもを持ちづらい理由の上位を占めるものではない」という説明でした。
子どもを持ちたいと思えない理由の一つに学校給食費を挙げて調査をするような愚かな研究者、一体どこにいるでしょう。
給食費は「子育ての経済的負担」というようなカテゴリーに含まれるようなものであり、それのみをことさら取り上げ調査するような研究など到底あり得ないものだと思います。
そのような恐らくあり得ないデータが見当たらないから、給食費は少子化の要因ではないと決めつける姿勢に大きな疑問を感じます。

公益財団法人1more baby応援団による夫婦の行き来調査2023によると、「二人目の壁を感じる」と答えた人は過去10年で最も高く78.6%、その理由は「経済的な理由」と答えた人が76.8%と最多でした。
全体の75.8%が「日本は子どもを『育てやすい国』に近づいていない」と答え、その理由として男性は「児童手当が十分でないから」と答えた人が48,9%と一番多い結果でした。
こうした結果から見ても子育てへの直接的な経済支援は非常に重要であり、給食費の無償化はその一助であると考えます。

貧困対策についても、生活保護や就学援助金で既に対策は取られているとの説明でした。
しかし日本の生活保護の捕捉率は15~20%と言われており、生活保護が必要なのに保護を受けられていないご家庭は非常に多いという現実、就学援助金も申請制であるために制度を利用できていないご家庭がある可能性も否定できません。
何よりも貧困対策は所得など様々な条件があるため、非常に苦しい経済状況でありながら制度のはざまで制度が受けられないボーダーラインの世帯が必ず存在するという事実を考慮するべきだと思います。

私が本当に驚いたのは、「全ての人に全額、何でも「持ってあげてくれ」「持ってあげてくれ」という要望だけを申す議員には、個人的にはなりたくない。将来への責任感がない」という言葉でした。
この発言が一体どのような議員を指しているのか、私には想像もつきません。
が、経済を推し進めようとする力と、国民・市民一人ひとりのいのちとくらしを守ろうとする力とのせめぎ合いの中で、社会は発展していると思います。
いのちとくらしを守り社会福祉を増進させようとする国民・市民の運動の中で、例えば近年では保育無償化や新生児聴覚スクリーニングの無償化、広くとらえれば小中学校の教室へのエアコン設置や洋式トイレかなども実現してきました。
何もしないで黙って指を咥えて待っていれば、政府が何か良い制度を思いついて提供してくれるということではありません。国民・市民の願いと運動が必要です。

日本国憲法25条には、健康で文化的な最低限度の生活を送る国民の権利と共に、「国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と謳っています。
「全ての人に全額、何でも「持ってあげてくれ」「持ってあげてくれ」という要望だけを申す議員」という言葉は、社会福祉の増進を願う市民と、それを議会に届け発言する議員をひどく侮辱する言葉であり、市民の願いを審査する上での発言として非常に不適切です。
社会がどのように発展しているのかという視点にも大きく欠ける発言です。
そして日本国憲法についても無知だと言うしかありません。

もう1点、「請願に賛成するということは、絶対に必要だからこの先一般質問でも予算要望でも全部入れていくくらいの気概がないと議員として賛成するのは無責任」との発言もありました。
議会にはこれまでもいくつかの請願が提出されてきました。例えば昨年6月議会に提出された水路整備の請願には、未来会議のみなさんも賛成されました。しかしその後、水路整備を一般質問で取り上げ、実現を迫ったことがあったでしょうか。
明らかに言行不一致の発言です。
また、議員が請願に賛成するにあたり、予算要望にも一般質問にも入れていくような姿勢をもたなければ賛成してはいけないのでしょうか。
こうしたことを考えると、明らかに請願を否定するためだけにこの動議が出されたと思います。

日本共産党が発行するしんぶん赤旗の調査によると、昨年12月時点での学校給食を無償化する自治体は、小・中学校とも給食費が無償の自治体は254、小学校のみは6、中学校のみは11でした。同じくしんぶん赤旗のチームが今年8月に実施した調査では、無償化自治体は491、小学校のみは14、中学校のみは17です。
無償化する自治体がこの8カ月余りの間に、大きく広がってきたことがわかります。
特徴として挙げられるのは、少し前までは無償化する自治体は人口1万人以下と、規模が小さな自治体が少子化対策や人口減対策として実施するという事例が多かったのに対して、今は東京23区のうち18区が実施し、青森市・大阪市・奈良市・高松市・那覇市などの県庁所在地でもが小中ともに無償化しているということです。
今、無償化は全国的な大きな流れになってきています。

吉川市の財政状況では困難という発言もありました。
明石市の財政規模は2,000億円だそうですが、泉氏が市長に就任する前の子育て予算は125億円。
泉氏は12年間市長職を務め、その間に297億円にまで2.38倍延ばしたそうです。
要するに子育て支援のためにどれだけ予算を組むのか、市の姿勢にかかっているのだと思います。
吉川市でできないということは絶対にないと思います。
まして予算執行権のない私たち議員が、吉川市では無理だと決めつけることでもありません。

…こんなことを考えると、改めて「趣旨採択」との決定が残念で、とても悲しくて仕方ありません。