『幻の村ー哀史・満蒙開拓』
議会中ですが、読み始めたら途中でやめることができず、一気に読み終えてしまいました。
『幻の村ー哀史・満蒙開拓』(手塚孝典著 早稲田新書)。
精神科医で劇作家のくるみざわしんさんのファンです。
『あの少女の隣に』『ひとつオノレのツルハシで』、観た作品はまだ2作だけですが、圧倒的に豊富な言葉と精神科医ならではの展開、張り詰めた何かに深く共感してしまうのです。
『幻の村ー哀史・満蒙開拓団』は戦中若くして河野村の村長を務め、天皇や県の期待を背負って満蒙開拓団を送り出し、敗戦の混乱の中で送り出した村民は集団自決し、こうした事実に苦悩し自死を選んだくるみざわしんさんの祖父、胡桃澤盛さんの日記を紹介しながら、今を生きるくるみざわさんの苦悩をも描く一冊です。
著者の手塚孝典さんは20年もの長きにわたり、満蒙開拓について取材を続けてきたそうです。
一体何がその20年を支えたのか、とても気になるところです。
国策として満州への移民を促し、そのために政府は満州開拓を様々に彩りました。
開拓民を送り出した村には政府から多額の交付金が支給され、貧しい農村を豊かにするためには開拓民を送り出すしかない構図がつくられました。
しかし開拓民たちは敗戦に伴い、死を選ばざるを得ない状況に追い詰められました。
開拓民の死者は約8万人、そのうち7万人が逃避行と避難所生活の中で病死したのだそうです。
生き残って無事に帰国した人々にも、既に帰る場所はありませんでした。
「自分で選んで満州に行ったのに」「満州でいい思いをしてきたのだろう」と、命からがらに帰国した人々に自己責任が問われました。
間違っていたのは政府の施策、特に満州国の建国だったのだと思いますが、その被害者である日本国民が分断され、自己責任論が持ち込まれ、本当の被害者のみなさんは救済されていません。
生きるために、子どものいのちを救うために中国に残って現地の人々と結婚するしかなかった残留者にも「自分で選んだ」と、政府はまともな救済をしていません。
そして本当ならそれほど大きい責任がないと思われる胡桃澤盛さんが自死を選ばざるを得ない状況に追い詰められる・・・。
日本社会の悲しい現実を見たような気がする、そんな息苦しい一冊。
けれども、こうした悲しい現実を直視すべきだと私たちに教える、そんな一冊でもありました。