『水曜日の凱歌』
もともと咳だけの喘息があるのですが、久しぶりにひどい咳に苦しみました夜も眠れないし、会話もできず、パソコンに向かって仕事をするような気力もわかず、仕方がないのでひたすら本を読んでいました。
『水曜日の凱歌』(乃南アサ著 新潮文庫)。
スゴい小説でした。
終戦からの1年の日本の女性たちの変化、を14歳の少女の視点で描きます。
敗戦後3日目にして、進駐してくるアメリカ兵のために特殊慰安施設(RAA)をつくりはじめる日本政府。
良妻賢母だったはずの「お母さま」はそれまで敵性語とされ使うことを禁じられていたはずの英語を使ってRAAで、スタッフとして働き始めます。
「新日本女性に次ぐ。戦後処理の国家的緊急施設の一旦として進駐軍慰安の大事業に参加する新日本女性の率先協力を求む。ダンサー及び女事務員募集。年齢18歳以上25歳まで。宿舎、被服、食糧全部支給」。
こんな謳い文句で、戦争で夫や家や家族を失い困窮する女性たちをかき集めた日本政府。
まさかそれがアメリカ兵のために身体を売る仕事とは気付かず、応募したたくさんの女性たち。
そんな仕事から逃げ出し自死を選んだ女性もいたけれど、慣れていった女性もたくさんいたし、「お母さま」はアメリカの将校と交際して当時の日本人にはなかなかできない暮らしを手に入れる・・・。
対処の仕方はさまざまでも、みんながそれまで信じ込まされてきた価値観を失い、自分を縛り付けてきた価値観・社会、そして何か大きな力に復讐しながら自分の生きる道を探していた・・・。
そんな風に読み取れました。
敗戦後3日目から作り始めたRAAは最初はアメリカ兵の長蛇の列ができて、女性たちは一日に何人もの男性の相手をさせられ、やがて性病が蔓延。
その責任を全て日本の女性たちに押し付けられ、アメリカ兵のRAAへの立ち入りは禁止されてしまいます。
かき集められた女性たちは何の保障もなく、放り出されていきます。
貧しい女性たちが男性の都合の良いように使い捨てられて行きました。
それでもこの小説の題名は『水曜日の凱歌』であり、勝利を祝う歌です。
日本が戦争に負けた1945年8月15日は水曜日。
RAAが閉鎖された1946年3月27日も水曜日。
そして1946年4月3日、婦人参政権が認められ、戦後初の衆議院選挙の届け出の締め切り日も水曜日。
更に一週間後の4月10日水曜日に第22回衆議院総選挙が行われ、39人の婦人代議士が誕生。女性候補者の48%が当選。
この小説はRAAという究極のジェンダー不平等を描きつつ、実は「男尊女卑の国が女に対してやってきたことのすべてを、ひっくり返してやるんだ」と、「女たちの声を国会に届ける」と立ち上がった女性たちの勝利を祝う小説なのだと思います。