教育DX(デジタル・トランスフォーメーション)をどう考えれば良いか?

2025年04月24日

ニューヨークから帰国してまだ時差ボケ真っただ中の4月16日(火)、東部南地区(越谷市・草加市・三郷市・八潮市・吉川市・松伏町)の日本共産党議員交流会が開催されました。
今回の学習会のテーマは「教育DXをどう考えれば良いのか」、講師はさいたま教育文化研究所事務局長の関原正裕さんでした。

デジタル教育の肯定的側面

調べものをするときの情報収集や、画像・動画を使った学習ができるようになるなど、デジタル技術の使用により今までできなかった教育が可能となってきています。
子どもたちが調べたことや撮影した写真・動画を使って発表することもできるようになりました。
視力の弱い子どものために文字を拡大したり、黒地に白い文字で表示することにより、読み取ることが可能になるお子さんもいるそうです。読み上げ機能を使用することもできます。
オンラインで、教室に来られない子も授業に参加できるようになりました。

世界でも日本でも、オンライン上の偽情報や陰謀論・誹謗中傷が政治に影響を与える事態が起き、民主主義に取って放置できない問題になってきています。子どもたちがデジタル社会に参画するための基本的な能力を持つことは民主主義の未来にとって重要なことだと、坂本旬氏(法政大学教授)は指摘しています。

否定的側面・・・画一化の危険

授業で何をどのように教えるかは教員一人ひとりの創意工夫によって組み立てられ、それが教員の働き甲斐にも繋がっていました。
しかしAIドリルなど、学び方まで組み込まれたデジタル教材が民間事業者によって開発され、それが自治体単位で購入され、教員が使わざるを得ない状況が起きています。教員の創意工夫の自由が制約され、画一化していく方向が生まれ、学びの劣化・形骸化が起きる恐れがあります。

どういう能力を獲得したいかは、それぞれの子どもがどういう人間になりたいかということと繋がっています。
何をどう学びたいか、学習要求はそれぞれの子どもによって違います。個々の学習要求は集団の関係の中で形成され、他者と一緒の時間を過ごし、その言動に触れる中で形作られます。そうした共同の場を保障することに学校教育の意味があります。
子どもたちの「こういうことを学びたい」という思いに応えるためにデジタルを道具として使うのであって、デジタルの活用を目的化してはいけません。

デジタル教育登場の背景

 教育DX・ICT教育の推進を言い出したのは文科省ではなく、経済界でした。長期不況に喘ぐ社会の突破口を模索する中で、「教育」という巨大市場が着目されました。次々と子どもたちが成長して学校を去り、しかしまた次々に新たな入学生を迎える教育現場は経済界から見ると恰好のの巨大市場です。

アメリカのチャータースクール

アメリカでは公設民営のチャータースクールが広がっています。
公立学校と比べ柔軟な運営が可能で、カリキュラムや授業方法・運営方針において大きな裁量を持ち、独自の教育プログラムを採用することができる学校です。「マックチャーター」(マクドナルドのような多店舗経営の公設民営学校)が全国に拡大する中で、従来の学校は廃校に追いやられています。
中でも「ロケットシップ・エデュケーション」というチャータースクールは急成長を遂げています。
コールセンターのような教室をつくり、個別に仕切られた空間にヘッドホンを付けた子どもが何列にも並んで座り、コンピューターを操作します。
コンピューターが提示する問題に一つ正解すると、少し難しい問題を解く。それにも正解したら、更に難しい問題。間違えたら少し簡単な問題。テストが終わると、どこができないかがわかるというものです。

先生はいらない

ロケットシップ・エデュケーションで働く教員の75%は、たった5週間で非正規教員免許を得られるプログラムの出身者です。時給15ドルの非正規免許教員に最大130人の生徒を監視させます。
チャータースクールはスラム街に多く、一方裕福な地域では芸術や音楽で完成を磨き、エッセーやディベートで批判的思考を育み、文武両道で体力やリーダーシップを養う全人教育が行われています。

ICT教育への警鐘

一昨年7月、国連「ユネスコ」は200を超える世界各国からの報告を基に、ICT教育について分析した「2023年グローバルエデュケーションモニタリングレポート」を発表しました。世界各国の利用実態と問題点・課題を明らかにし、「具体的な証拠』をもとに各国政府の「適切な管理と規制の欠如」に対して警鐘を鳴らしています。
「教育におけるデジタルテクノロジーの付加価値についての確固たる証拠はほとんどない」「過度なICT使用と生徒の成績の間に負の関連があることを示唆している。教育テクノロジーは不適切または門出ある場合には、有害な影響を及ぼし得る]としています。

各国の学校でのスマホ規制

スマホが未成年に与える心身への影響を考慮し、欧州各国の学校で使用規制が広がっています。
フランスでは今年9月から、11~15歳を対象に全ての中等教育学校でスマホ利用を全面禁止します。生徒の集中力向上と学習環境の改善を目的としています。
イングランドでは、今年4月時点で99%の主御学校、99%の中学校が何らかの形で生徒に対し構内でのスマホ使用を制限しています。
オランダでは2024年1月から小中学校で学習目的以外のスマホ使用を禁止しました。
スウェーデンでは授業中の学習目的以外のスマホ使用を禁止し、ルクセンブルグでは11歳以下の生徒に構内でのスマホ使用を禁止しました。スクリーン市長に関する政府ガイドラインは、2歳以下はデジタルメディアに曝させず、2歳以上には制限時間を設けるべきだと要請しています。
オーストラリアでも今年5月から、15歳以下の生徒に構内でのスマホ使用を禁止しました。
アイルランドでは、16歳未満の生徒に構内でのスマホ使用を検討しています。

子どもたちにとってペンと紙の方が有益であることは、あらゆる調査をみても明らか 

私自身はデジタルは案外と好きです。
パソコンのキーボードをたたきながら文章を作成するとき、頭ではなく指先で何かを考えているような感覚があり、それが何となく楽しく感じてしまうのです。
でも、アナログの世界で散々生きてきた中でデジタルを面白いと思うのと、最初からデジタルの世界で生きるのとではとても大きな違いがあるのだと思います。
子どもたちにとってはペンと紙、アナログの世界がとても有益だとあらゆる調査結果が物語っています。
子どもたちに「使うな使うな」というのも間違いだけど、「使え使え」というのも間違いだということも既にわかっています。
子どもたちにとってペンと紙の方が有益であることは既に明らかになっています。
どのように使わせるのか、十分な検討が必要なのだと思います。