映画『どうすればよかったか』

2025年01月24日

社会人になって一番最初に配属された精神科病棟で50代の女性に出会いました。
若いころに統合失調症(当時は精神分裂病と呼ばれていました)を発症し、座敷牢に30年近く入れられていて、看ていたお母さんが亡くなって初めて精神科医療に繋がった方でした。
自分だけの世界に住んでいるような感じで社会性はすっかりと失われ、私たちスタッフともほとんど会話はできませんでした。
ただ時々その方が発する言葉から品の良さ、育ちの良さのようなものを感じたり、もし座敷牢などに閉じ込められずに社会の中で暮らしていたら、もっと社会性が保たれていたに違いないと思うことがしばしばありました。
座敷牢に閉じ込められたばかりに、こうなってしまったんだろうなと。

その後上京して代々木病院の精神科病棟に配属された時、そこでは統合失調症の患者さんをできる限り社会から切り離さない、患者さんの社会生活を重視する治療方針を学び、深く感動したことを覚えています。

映画『どうすればよかったか』を観てきました。

医師で基礎医学研究者のご夫婦の娘さんが大学在学中に統合失調症を発症したとか思えない状態に。
しかし両親は「統合失調症」とは認めず、医療にもつなげず、「勉強ばかりさせてきた復讐に統合失調症のようにふるまっているだけ」と。
ひとりで外に出て行かないように、玄関ドアには幾重もの鍵をかける・・・。
お母さんに認知症の症状が現れるようになり、二重介護になった時に初めて精神病院に入院。
既に発症から25年も経っていました。
本人に合った薬がすぐに見つかり、3カ月で退院。ようやくそれなりに落ち着いた状態になったものの、肺がんが見つかり、まもなく亡くなってしまいました。

この作品は統合失調症を発症した家族のドキュメンタリーで、カメラを取ったのは弟さんの藤野知明さんです。
25歳の頃には事実を認め、受け入れて、お姉さんを病院に連れて行くのが良いと考えていましたが、ご両親を動かすことはできませんでした。

期待していた子どもが統合失調症を発症したとしたら、親としてどう振舞うのか・・・。
「認めたくない」という気持ちが先に立つ親がいたとしても、気持ちとして理解できなくはありません。
ただ今はとても良い薬が開発されてきているし、治療法も洗練されてきているし、治療さえちゃんと受ければ普通に社会の中で生きていくことが十分可能になっていると思います。
その事実がもしかしたら、まだまだ十分に知られていないのかもしれません。

ただこのご一家はご両親が医者で研究職に就いていて、こうした事実を知らないわけではないはずなのに、長期にわたって娘の統合失調症を認めることができませんでした。
家族の病気・障害を受け入れることの難しさを改めて感じ、でもその犠牲になるのは発症した当事者自身だという事実にとても胸が痛みます。